令和5年(ヨ)第41号 仮の地位を定める仮処分申立事件
決定
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1.本件申立をいずれも却下する。
2.申立費用は債権者の負担とする。
理由
第1 申立ての趣旨
1.債権者が債務者政治家女子48党の代表者の地位にあることを仮に定める。
2.債務者齊藤健一郎が債務者政治家女子48党の代表者の地位にないことを仮に定める。
第2 事案の概要
1 前提事実
1) 債務者政治家女子48党(以下「債務者政党」という。)は、令和元年8月13日に設立され、令和5年3月8日、名称を「NHK党」から「政治家女子48党」に変更した政党である(甲1)。
2) 債権者は、令和5年3月8日、債務者政党の代表者に就任した(争いがない)。
3)令和5年3月8日実施の債務者政党の党員規約には、代表者その他役員の選出方法の定めがなく、党員に関することで規約に定めのないものは党役員会において決定する旨の定め(8条)がある(甲5)。
4) 令和5年3月29日実施の債務者政党の規約には、次のような定めがある(甲4)。
ア 役員として、①代表者1名、②党首1名、③会計責任者1名、④臨時管理人1名、⑤監事3名以内を置く(6条1項)。必要に応じて⑥副党首5名以内、⑦幹事若干名を置くことができる。(6条2項)
イ 代表者は債務者齊藤健一郎(以下「債務者齊藤」という。)とし、臨時管理人は立花公美とする(7条1項)。それ以外の役員については、別に定める規定により実施する選挙・インターネットによる意見聴取等の結果に基づいて党首が任命する。なお、その任期は2年とし、辞任と再任を妨げない(7条2項)。
ウ 規約に定めなき事項については役員会において決定する(13条1項)。
5) 債務者政党は、令和5年4月7日、債権者が同年3月29日辞任し債務者齊藤が代表者に就任した旨の変更登記申請をし(争いがない)、同年4月12日、変更の原因を~同月6月解任に補正する旨の書面を提出した(乙A6)。
2 債権者の主張
1) 債務者政党は、債権者が辞任していないにもかかわらず、債権者に無断で、債権者が記名押印していない辞任届等の書類により代表者の変更登記をしようとしており、もはや尊重されるべき債務者政党の内部的自律権に属する行為ではないし、登記の瑕疵にも関係するから、「一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる」ともいえず、司法審査が及ぶべきである。
2) 債権者は、債務者政党の代表者を辞任したことも、辞任する旨の書類に署名押印したこともない。債務者らが主張する令和5年4月6日の役員会なるものは、代表者である債権者が招集したものではなく、適正な招集手続がされたともいえず、除名処分を受ける債権者に弁明の機会も与えられておらず、無効ないし不存在である。債務者らが主張する同月12日の定例総会は、党員全員に適正な方法で招集手続が行われておらず、事前に議題を知らせてもおらず、無効ないし不存在である。
3) 債権者は、債務者政党の代表者としての地位を失えば、債務者政党の代表者として政治活動ができなくなるなど、著しい損害が生じる。また、債権者には、債務者政党の受領する政党交付金を適正に使用し、その収支を詳らかにするため、債務者政党の代表者として調査等を行う利益があり、保全の必要性がある。
本件において代表者の地位が保全されれば、政治資金規正法上の代表者の地位が変更されない可能性が高く、政党交付金を受ける公党である債務者政党が裁判所の決定に従わない可能性は低い。したがって、債務者政党が任意の履行を拒否する旨主張していることは、保全の必要性を否定する理由にはならない。
3 債務者らの主張
1) 本件の事案は、除名処分を前提とした民事上の請求でもなければ、除名処分を背景とした除名届を前提とした当選の可否でもなく、政党の代表者の地位確認という、除名処分(あるいは辞任)の可否そのものが争点であり、ここには、政党の代表権の帰属という政党の内部事情しか存在せず、外部的事情は一切ないから、司法審査が及ぶと考える余地はない。
2) 債権者は、令和5年3月29日、債務者政党の代表者を辞任した。
また、債務者政党は、同年4月6日に行われた緊急役員会において債権者を除名処分として代表者を解任し、さらに、同月12日に行われた定例総会において債権者につき代表者を解任した。
3) 債権者が政党の代表者でなかったとしても、政党が公認候補とすれば政党からの立候補は可能であり、代表者として立候補させるか、一党員として立候補させるかはまさに政党の内部的自立権の問題である。
債権者は、代表者と称しながら、現に係属している数々の裁判の対応をせず、政党交付金が振り込まれる口座運用の権限を持ちながら債務者政党の従業員に対する給与も支払わず、債務者政党に不正な支出があるなどと名誉を傷つけるなど背任行為をしている。債務者政党の役員や党員らは、債権者のこうした一連の行為を著しい非行と判断して、仮に辞任していないのであれば解任し、党員として除名させたものであり、本件仮処分が発令されたとしても、債務者政党が任意の履行をする意思はない。
第3 当裁判所の判断
1.政党は、政治上の信条、意見等を共通にする者が任意に結成する政治結社であって、内部的には、通常、自律的規範を有し、その成員である党員に対して政治的忠誠を要求したり、一定の統制を施すなど自治機能を有するものであり、国民がその政治的意志を国政に反映させ実現させるための最も有効な媒体であって、議会制民主主義を支える上において極めて重要な存在であるから、政党には高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をする自由を保障しなければならない。したがって、政党の内部的自律権に属する行為は、法的に特別の定めのない限り尊重すべきであり、例えば、政党が組織内の自律的運営として党員に対してした除名その他の処分の当否については、原則として自律的な解決に委ねるのが相当であり、政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばないとされている(最高裁昭和60年(オ)第4号同63年12月20日第三小法廷判決・集民155号405頁)。
そして、債務者政党の代表者を誰と定めるかは、党員に対する処分と同様。あるいはそれ以上に、債務者政党の内部的自律権に属する行為であり。それ自体としては、一般市民法秩序と直接の関係を有しない債務者政党の内部的な問題にとどまるものと解される(なお、前提事実のとおり、債権者が令和5年3月8日に債務者政党の代表者に就任したことは当事者間に争いがないけれども、その際、債権者がいかなる手続に基づいて債務者政党の代表者となったのかは不明である。)。
また、政党内で自律的に選出された代表者が登記(政党交付金の交付を受ける政党等に対する法人格の付与に属する法律7条の2第1項、7条2頃4号)に反映されていない場合、これを是正する局面において司法審査の対象となり得るとはいえ、代表者の変更それ自体は、飽くまで政党の内部的自律権に属し、その内部的な問題にとどまる。さらに、政党の代表者たる地位を有するか否かは、同党の候補者として立候補できるか否かを直接左右しない上、候補者として立候補させるか否かは政党の内部的自律に委ねられるべき問題であって、債権者が債務者政党の代表者の地位を有するか否かが一般市民法秩序と直接の関係を有するとはいえない。
したがって、債権者ないし債務者齊藤が債務者政党の代表者の地位を有するか否かについて、裁判所の審判権が及ぶとは解されない。
2.上記1の点を置くとしても、本件申立てに係る仮処分は、民事保全法23条2項の定める「仮の地位を定める仮処分命令」であり、「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる」ものである。そして、本件申立てに係る仮処分命令は、債務者の行うべき命令の具体的内容が極めて抽象的で、その内容に応じた保全執行を行うことができず、これに違反した場合の法的効果も格別存在しないなど、専ら債務者の任意の履行に期待する仮処分であり、これが許容されるためには、①債務者が同仮処分命令を任意に履行する可能性が高いこと、②具体的な権利、利益についてその必要性が存在すること、③執行可能な仮処分が他に存在しないことなどの事情の有無が検討される必要がある。
そして、本件申立てに係る仮処分の内容と政党交付金の交付先の判断は、法的に結びつかない。また、債務者らは、債権者が債務者政党の従業員に対する給与を支払わないなど背任行為を行ったため、代表者の解任や党員の除名をしたと主張しており、本件の判断如何にかかわらず、債務者らが債権者を任意に債務者政党の代表者の地位に置くことは考え難いというべきである。
そして、債務者らは、本件審尋期日において、仮に本件申立てに係る仮処分命令が発令されたとしても、任意に履行することはしない旨明確に述べており、少なくとも、債務者らにおいて命令を任意に履行する可能性が高いことを一応認めることはできない。
3. よって、その余の債権者の主張について判断するまでもなく、本件各申立てはいずれも却下を免れないので、主文のとおり決定する(なお、本決定の当事者の表示において、債務者政党の代表者を債務者齊藤としたのは、債務者政党が主張する代表者を掲げたにとどまり、債務者齊藤が債務者政党の実体的な代表権を有する真正な代表者であると判断したものではない。)。
令和5年5月26日
千葉地方裁判所民事第4部
裁判長裁判官 本田 晃
裁判官 田中 正哉
裁判官 河合 智史
別紙
当事者目録
東京都目黒区上目黒三丁目17番2号リセ中目黒103
債権者 大津綾香
同代理人弁護士 小松圭介
同 我妻路人
千葉県船橋市本町一丁目11番29-101号
債務者 政治家女子48党
同代表者代表者 齊藤健一郎
同代理人弁護士 久保潤弥
同 唐澤貴洋
東京都港区西麻布四丁目2番6-208号
債務者 齊藤健一郎
同代理人弁護士 村岡徹也
以上
これは正本である。
令和5年5月26日
千葉地方裁判所民事第4部
裁判所書記官 遠藤陽一
参照元
https://twitter.com/maruyamahodaka/status/1663432773355577345
https://twitter.com/maruyamahodaka/status/1663433269348823041